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2025-05-02 13:33:00

昨年より中小企業の人事労務トレンドとして注目されてきた「防衛的賃上げ」。
日本商工会議所の2024年の調査によれば、業績改善が見られなくても賃上げを実施予定の企業が36.9%と、近年で最も高い割合となりました。2025年に向けてこの傾向はさらに強まる可能性があります。

なぜ防衛的賃上げが広がっているのか?

最大の理由は「人材確保」です。深刻な人手不足の中、採用市場での競争力維持と既存社員の引き止めのため、業績に関わらず賃上げを実施せざるを得ない状況が広がっています。また「物価上昇への対応」も大きな要因となっており、従業員の生活を守るための措置という側面もあります。

経営者が賃上げ決断に踏み切れない理由

多くの経営者が賃上げの必要性を理解しながらも決断に躊躇する背景には、いくつかの理由があります。
まず「将来の不確実性」への懸念です。景気変動や市場環境の変化に対して、一度上げた賃金は下げづらいという構造的な問題があります。
また「価格転嫁の難しさ」も大きな壁となっており、取引先との力関係から価格交渉が難航するケースも少なくありません。
そして「賃上げの効果測定の難しさ」も挙げられます。賃上げが本当に人材確保や生産性向上につながるのか、確証が持てないというジレンマも存在するのです。

中小企業の悩みどころ

賃上げ原資の確保が最大の課題です。多くの企業が「人件費以外のコスト削減」や「価格転嫁」に取り組んでいますが、実態は「特に対応はしていない(収益を圧迫している)」企業が最も多いのが現状です。限られた経営資源の中で、人材確保と収益確保の両立に苦慮しているのです。

これからの対応策

単なる賃上げだけでなく、賃金体系の見直しも重要です。従来の年功型から「貢献度反映型」への移行を検討し、限られた原資で効果的な報酬制度を構築することが求められています。また、賃金だけでなく働きやすさや成長機会など、総合的な魅力づくりが防衛策の鍵となるでしょう。


人事労務の専門家からのPOINT

賃上げが従業員に与える心理的効果

賃上げは単なる経済的効果だけでなく、「自分の価値を認められた」という心理的効果をもたらします。
特に期待値が高まる中での賃上げは、モチベーション向上、帰属意識の強化、離職率の低下につながります。
一方、期待を下回る賃上げは逆効果になりかねないため、事前の期待値コントロールが重要です。

賃上げと合わせて取り組むべき施策

①透明性のある評価制度の導入:賃上げの基準を明確にし、公平感を高めることで効果が増幅します

②キャリアパスの明確化:賃金とキャリアの成長を連動させ、将来の展望を示すことで定着率が向上します

③柔軟な働き方の導入:金銭的報酬と働きやすさを組み合わせることで、総合的な満足度を高められます

④教育投資の強化:賃上げと能力開発を連動させることで、生産性向上と賃上げの好循環を生み出せます

専門家からのアドバイス

「防衛的賃上げ」という言葉からは後ろ向きなイメージを受けますが、これを「戦略的投資」と捉え直すことが重要です。
人件費を「コスト」ではなく「投資」と位置づけ、その投資効果を最大化する施策を同時に実施することで、人材確保と業績向上の両立が可能になります。賃上げの機会を組織変革のきっかけとして活用し、より生産性の高い組織づくりへと転換していきましょう。